環境先進国スウェーデン史上最大の環境犯罪はなぜ起きたのか ──Think Pink事件が変えたスウェーデンの廃棄物管理

「環境先進国」として知られるスウェーデンで、なぜスウェーデン史上最大と呼ばれる環境犯罪は起きたのでしょうか。大量の廃棄物が不法に投棄され、自治体と住民に深刻な影響を残したThink Pink事件は、一企業の不正にとどまらず、廃棄物管理制度そのものの弱点を浮き彫りにしました。本稿では、事件の全体像と背景を整理しながら、この出来事がスウェーデンの廃棄物政策に何をもたらしたのかを見ていきます。

~目次~
Think Pink事件の概要
事件の背景① 安すぎる処理費用
事件の背景② 分権型廃棄物行政が抱える構造的課題
事件後に見直されたスウェーデンの廃棄物管理

 

Think Pink事件の概要

Think Pink社は、建設・解体廃棄物の収集運搬および処分の手配を請け負っていた、スウェーデンの民間廃棄物処理事業者です。同社は自治体や建設会社、住宅組合、個人などから幅広く廃棄物処理を受託し、リサイクルや適正処理を掲げて事業を展開していました。しかし、2015年から2020年にかけて、Think Pink社が約20万トンに及ぶ建設廃棄物・解体廃棄物を不法に投棄していたことが2020年に明らかになります。投棄場所はスウェーデン国内21か所に及び、複数の自治体にまたがって廃棄物が長期間保管・放置されていました。現場には建設廃棄物に加え、家電、プラスチック、タイヤなど多様な廃棄物が混在しており、その規模と地理的広がりは極めて大きなものでした。

これらの廃棄物の中には、鉛、高濃度PCB、水銀、ヒ素といった有害物質を含む可能性のあるものも確認されており、周辺住民の健康や土壌・地下水への影響が強く懸念されています。さらに、2020年から2021年にかけては、2か所の廃棄物の山が自然発火する事態となりました。この火災は数か月にわたって続き、大気汚染や有害物質の拡散など、周辺環境への深刻な影響が生じたと指摘されています。

2021年、不法投棄された廃棄物の山で自然発生した火災(ストックホルム南部のボトキルカ) 出典 BBC

事件が表面化する以前の2018年には、元CEOのベラ・ニルソン氏が起業家としての功績を評価され、ビジネス賞を受賞するなど、一時期は社会的評価を得る廃棄物処理業者として認識されていました。しかし、実際には、同時期に適正処理を装いながら各地で廃棄物を山積みにし続け、被害を拡大させていたのです。この事態は、同社が2020年に倒産したことで発覚しました。不法投棄に関する裁判は2024年に開始され、2025年6月、元CEOに懲役6年の実刑判決が言い渡されました。さらに、環境コンサルタント、廃棄物ブローカー、運搬業者、地主など複数の関係者が不正に関与していたことも認定され、このうち4名に懲役2年から4年6か月の実刑判決が下されています。また、裁判所は元CEOを含む中心人物5人に対し、撤去・除染費用として複数の自治体に約2億6,000万スウェーデンクローナ(約40億円)の損害賠償を支払うよう命じました。さらに、環境団体の調査によれば、不法投棄が確認された自治体のうち、現在も9自治体では廃棄物が完全には撤去されておらず、事件の影響は継続しています。

「ゴミの女王」として知られたThink Pink社の元CEO Bella Nilsson 出典 Nyheterna

①約20万トンという廃棄物量、②国内21か所に及ぶ地理的な広がり、③約5年間にわたる継続性、④有害物質の混在や自然発火による環境・健康リスク、⑤自治体が撤去・除染対応を迫られた巨額の公的負担―といった要素が同時に重なったことで、この事件は「スウェーデン史上最大の環境犯罪」と位置づけられるに至りました。では、なぜこれほど大規模で長期間にわたる不適正処理が、複数の自治体にまたがりながら見過ごされてきたのでしょうか。

 

 

 

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事件の背景① 安すぎる処理費用

Think Pink事件について、海外メディアは検察の説明を軸に、同社の事業活動がどのようにして大規模な不法投棄へとつながったのかを報じています。報道によれば、同社は首都ストックホルム周辺で、相場より著しく安価な廃棄物処理サービスを提供していました。これについて検察は、同社が偽造書類を用いて当局を欺き、廃棄物を適正に処理・リサイクルしているかのように装うことで、実際には不適正な処理を行いながら巨額の利益を得ていたと説明しています。また、別の検察官は「これほど安い料金で本当にリサイクルできるのか疑わなかったのか」と指摘し、処理を委託した側の認識や判断の甘さにも問題があった可能性を示唆しています。

2018年から2020年にかけてのピーク時は、Think Pink社のフレコンバッグはストックホルムでよく見かけられた 出典 8sidor

 

事件の背景② 分権型廃棄物行政が抱える構造的課題

スウェーデンの廃棄物行政は、地方自治体に大きな権限が委ねられた分権型の仕組みで運営されています。OECD※は、同国の環境行政について、自治体が国の法令を実施する上で広い裁量を持つ一方、中央政府は主にガイダンスや調整を通じて関与する構造にあると整理しており、地域の実情に即した柔軟な運営が可能である反面、広域的な事案を一体的に把握・監督しにくいという課題があると、捉えることができそうです。

廃棄物管理の制度設計も、こうした分権的な行政構造が色濃く表れています。スウェーデンでは、危険廃棄物(日本の特別管理産業廃棄物に概ね相当)については事業者による電子的な記録・報告制度が整備されている一方、それ以外の廃棄物には同等の制度がありません。一般廃棄物は自治体が地域ごとに管理し、産業廃棄物は排出事業者の責任で運搬・処分されます。一般廃棄物を自治体が担う点は日本と共通しますが、産業廃棄物について排出から最終処分までを全国統一のマニフェスト制度で一貫して把握する日本とは、情報管理の方法が異なります。

このように、権限や情報が主体ごと・地域ごとに分散して管理される制度のもとでは、Think Pink社のように複数の自治体にまたがる不適正処理の全体像が把握されにくかった可能性があります。

 

※OECD(経済協力開発機構):日本や欧米諸国などが加盟する政府間国際機関。各国の経済・環境・行政制度について、統計データに基づく分析や政策提言を行っている。

 

事件後に見直されたスウェーデンの廃棄物管理

Think Pink事件は、大規模な不適正処理がなぜ長期間見過ごされたのかという問いを通じて、スウェーデンの廃棄物管理制度そのものを見直す契機となりました。

スウェーデン環境保護庁は、環境犯罪やその環境影響を全国的に把握する体制の強化に言及しています。実際、2022年からは、同庁を中心に警察、検察、税関、沿岸警備隊、複数の自治体が連携し、廃棄物犯罪対策を進める政府プロジェクトが実施されており、2026年3月には最終報告が予定されています。

その流れの中で、制度面でも具体的な見直しが始まりました。Think Pink事件は、届出制のもとで大量の建設・解体廃棄物が長期間保管できるという制度の盲点を、社会に強く印象づける事例となりました。また他の事案でも同様に悪用されて倒産後に廃棄物が放置され、行政が事後対応を迫られるケースも確認されていました。これを受け、2025年6月、政府は環境許可令を改正し、大量の建設・解体廃棄物や金属スクラップ処理後の可燃性残渣の保管を届出制から許可制へと移行しました。無許可で保管できる廃棄物量の上限は、従来の1万トンから1,000トンへと大幅に引き下げられています。あわせて、自治体が、事業者に対して撤去費用を事前に留保するよう経済的保証を求める仕組みも整備され、倒産時の公的負担を抑える方向に制度が見直されました。さらに、環境保護庁には監督当局を支援するための追加予算が配分され、関係機関の連携強化や、環境犯罪に対する刑罰見直しの議論も進んでいます。

こうした動きは、スウェーデン国内にとどまるものではありません。EUでも、環境犯罪の増加や刑事責任・執行体制の不十分さが課題とされ、2024年には環境犯罪指令が改正されました。罰則や執行体制について、EU加盟国が共通して満たすべき水準が新たに示され、廃棄物犯罪を含む環境犯罪への対応をEU域内全体で強化していく流れが、より明確になっています。

 

最後に本コラムの内容を1枚にまとめたニュースレターを添付しますので、ご参照ください。
ニュースレター_2026.1

 

令和8年1月29日
株式会社リーテム
法務部
加藤 翠

 

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出典

Sweden’s ‘Queen of Trash’ jailed over toxic waste scandal (RFI)

Swedish municipalities demand millions from “garbage queen” in waste dumping scandal (The Nordic Times)

‘Largest Environmental Crime in Sweden’: 11 on Trial for Illegal Dumping of Toxic Waste (Eco Watch)

OECD Environmental Performance Reviews: Sweden 2025  / Chapter 1.3.1 Improving environmental governance and management (OECD)

Information to be submitted to the Waste Registry (Natur Vards Verket)

Waste management for businesses (Bodens Kommun)

Municipal waste management in Sweden (Natur Vards Verket)

Avfallshantering (Svenska kraftnät)

Regeringen ökar insatserna mot illegal avfallshantering (Regeringskansliet)

I 9 av 15 kommuner ligger Think pinks dumpade avfall kvar (Sveriges Natur)