読み解く!ドッド・フランク法 ~紛争鉱物~

今回のコラムは、いつものコラムとは少し趣を変えて、海を越えた米国での法律、ドッド・フランク法について、またその紛争鉱物の背景、さらに紛争鉱物に代わるリサイクル由来の鉱物についてなど、幅広い情報をご案内したいと思います。
本コラムをお読みの企業様におかれては、規制対象とはならない企業様も多いものと思われますが、非鉄金属系製品の製造に携わる方、”環境”に携わるご担当者におかれては、ぜひともご一読されることをお勧めします。

紛争鉱物とは…

紛争鉱物とは何なのか、どのような問題があるのか、なぜこのような規制ができたのかをまずはご紹介します。
コンゴ民主共和国やその隣接国の戦争で荒廃した国々では、金など鉱物の採鉱活動の収益が、残虐行為を犯している武装民兵、武装勢力の資金源となってきたと言われています。
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私はある本を読んだのですが、少年兵と呼ばれる銃を持った少年がこれらの鉱物を奪い合うために、命からがら大人と戦闘を繰り返している現実があります。それはどうしてか。それら少年兵はそれが生きる術だから。
その採取した鉱物が何になるのかもわからずに毎日のように戦闘を繰り返しています。
とても悲しい、悲しすぎる現実です。

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これらの紛争鉱物の諸問題を背景として、ドッド・フランク法は、2012年8月に米国証券取引委員会(SEO)から

公表されました。

 ドッド・フランク法とは…(目的)

ドッド・フランク法は、業界の透明性を向上させ、企業及び政府に社会的責任を果たさせる新たな手段を投資家や一般市民に提供することなどを目的としています。主な目的は以下のとおりです。

・紛争鉱物と呼ばれる、「スズ、タンタル、タングステン、金」に関して調査を行うこと
・これらの鉱物を製品に使っている企業に調達先を調べて開示させることで、資金源を絶つのが狙い
・紛争鉱物の使用に関する透明性の確保と消費者の認知を促す
・そして最終的には製造業者及び加工業者に紛争鉱物の使用を思いとどまらせる

◆ドッド・フランク法…ドッド・フランク・ウォールストリート改革及び消費者保護法
http://www.sec.gov/rules/final/2012/34-67716.pdf

ドッド・フランク法について(概要)

◆対象鉱物、対象製品
・製品の機能や製造に紛争鉱物(スズ、タンタル、タングステン、金)が必要である場合を対象
・携帯電話、PC、エンジン部品、デジカメ、プリンター、ゲーム機、補聴器、建設機械などの製品

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(ごめんなさい、スズさんは現在、お留守にしております^^;)

◆一部対象外鉱物
・これらの紛争鉱物がリサイクル由来のものであれば、調査の一部が軽減される

◆対象企業
・米国証券取引委員会(SEC)に報告書を提出している米国企業及び外国企業を対象
・上記の企業は米国の上場企業であり、その約半数(少なくとも6,000社)に直接的な関係があると言われている

◆報告内容
・コンゴ民主共和国及び隣接国産の紛争鉱物を含んでいる場合、「紛争鉱物報告書」を作成し、第三者機関の監査を受けて提出しなければならない
・ウェブサイトへの掲載も求められる
・紛争鉱物を使用している製品の説明、加工施設、産出国なども記載する

◆どのような調査方法か
・紛争地域及び高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス
・強固な管理体制の構築
・リスクの確認と評価
などの5つのステップで行う。

◆サプライチェーン全体の透明性における概念図

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◆調査期間、報告
・2013年2月以降製品分から調査開始
・毎年1月1日~12月31日の間に製造した製品を調べた結果を翌年の5月31日までに報告

◆どうすれば「紛争フリー」と言えるか
・第三者機関の監査を受けて認められた精錬所から調達したものであることを示すこと
・電子業界行動規範(EICC)とグローバル・eサステナビリティ・イニシアティブ(GeSI)が実施する「CFS(紛争にかかわらない精錬所)プログラム」の認証が代表的

調査にかかるコストとの兼ね合い

前述のとおり、対象企業は、紛争鉱物に関する調査を行い、報告しなければならないとされています。この調査費用について、果たしてどれだけのコストがかかるか…。一概には言えないのですが、ある記事によりますと、対象企業全体で30億~40億ドル(2,400億~3,000億円)かかると言われております。1社当たりに換算すると、単純計算で50万~67万ドル(4,000万~5,400万)
このようなコスト負担することが想定された場合、この負担を考えれば、コンゴ民主共和国及び隣接国産を買わないという企業が出てこないとも限りません。また、紛争に関わっていない健全な採掘事業者の経営をも脅かすことになりかねないことにも繋がりかねません。

都市鉱山鉱物の利用

前述のとおり、対象企業様におかれては、紛争鉱物に関する調査を行うことが求められますが、リサイクル由来の鉱物、いわゆる都市鉱山の鉱物であれば、そのような調査の一部が除外されることになります。(上記赤字のコストの大半)
すでに各企業では天然資源の利用ではなく、再資源化された原料の再利用を促進されているものと思われますが、ご紹介したドッド・フランク法の公表などの国外での動きを受けて(実際にEUやオーストラリア、カナダでもこのような規制の動きがある)、今後は日本でもますます再資源化原料の利用が求められるようになるものと思われます。

リーテムにおいても、昨年、世界初となる電子基板からのタンタルコンデンサ回収のための実用可能なラインを構築しました。これは、リーテムの電子部品類の剥離と濃縮工程のノウハウ、および(独)産業技術総合研究所が開発したタンタルコンデンサ高濃縮可能な気流選別装置との組み合わせで、電子基板からタンタルコンデンサの濃縮物を得る工程を構築したものとなります。
https://www.re-tem.com/ecotimes/factory-related/20121001/

以上のように、少年兵が武装して鉱物を奪い合わなくても、都市鉱山からタンタルだけを回収することができます
ですが、いくら技術はあっても、いくら設備が整っていても、再資源化するための原料が集まらないと都市鉱山から資源を回収することはできないのです。
世界規模で考えるとリーテムでできることは、ごく小さいことかもしれませんが、これからも限りある資源の使い方を皆様とともに考え、行動してまいります。

 

◆紛争鉱物に関するSECの情報開示規則(英語原文)
http://www.sec.gov/rules/final/2012/34-67716.pdf

◆the Securities and Exchange Commission(SEC)(米国証券取引委員会)
http://www.sec.gov/

◆経済産業省(米国の紛争鉱物開示規制に関する資料)
http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade/funsou/index.html
・米国における紛争鉱物に関する開示規制の概要(和文)
・金融規制改革法第1502条(英語原文)
・金融規制改革法第1502条(仮訳)
・米証券取引委員会(SEC)による紛争鉱物開示規制に関する最終規則(英語原文)
・米証券取引委員会(SEC)による紛争鉱物開示規制に関する最終規則(仮訳・部分抜粋)

 

平成25年2月15日
株式会社リーテム
マネジメント推進部
坂本裕尚