大手企業が先を急いで取引先の温室効果ガス排出情報を集め始めています。2050年カーボンニュートラルに向けて、自社のみでなく取引先企業の排出量や削減努力を把握しようとする動きのためです。
企業が温室効果ガスの排出量算定を急ぐ理由
東京証券取引所の市場再編で2022年4月に誕生した最上位『プライム市場』への上場企業は、TCFDガイダンスに沿ったもしくは同等の情報の開示が実質上の義務となりました。具体的には、Scope1&2の開示が必須になり、Scope3の開示も強く推奨されているそうです。
パリ協定と同時に作られた国際組織で、気候変動に関するリスクや機会と財務への影響に関する情報開示のためのガイダンスを策定している。2021年10月にガイダンスの一部は改訂された。
Scope1~3を知らないと言えない時代
Scope1~3の開示は、多くの企業にとって目前の課題です。いまや「Scope1、2、3って何のこと?」と大きな声では聞けない状況になりつつあります。
企業活動の「原料調達・製造・物流・販売・廃棄等」一連の流れ全体をサプライチェーンと言います。そこから発生する温室効果ガス(以下、GHG)の排出量は、サプライチェーン排出量と呼ばれ、Scope1、Scope2、Scope3、の3つの区分があります。この内Scope3は『GHGプロトコル』と呼ばれる国際組織が開発したGHG排出量算定のための基準です。カテゴリ1~15の分類があり、世界で広く使用されています。
Scope1は自社内で燃料を燃やすことなどによる温室効果ガスの直接排出を意味し、Scope2は電力会社から購入した電気等のエネルギーの使用による間接排出のことです。Scope1は自社が使用した燃料の量に燃料の種類別の「CO2排出原単位」を掛けて算出します。Scope2は購入した電力量に電力会社が毎年公表する「CO2排出原単位」を掛けて算出します。
Scope3の算定は一筋縄にはいかない?
自社のデータを基に排出量を算定するScope1や2とは異なり、Scope3はサプライチェーンで言うところの自社の上流および下流に位置する取引先や顧客による排出量の総量を集計するものです。なお、ここでの上流と下流とは、お金の流れを指します。Scope3の上流の定義は「原則として購入した製品やサービスに関する活動」で、カテゴリ1~8がそうです。下流は「原則として販売した製品やサービスに関する活動」と定義され、カテゴリ9~15が下流に位置付けられています。したがってScope3は、自社に無い情報を把握し、それらを基に排出量を算定しなくてはならないため、活動実態に即した精度の高い算定をするには、Scope1や2と比べて時間と労力を多く必要とするのです。
簡単では無いけれど多くの企業が取り組む理由は、本コラムで先述したように、投資家の要望に応じるためというのが一つですが、それだけではありません。サプライチェーン排出量の把握は企業活動全体を管理することにも繋がるため、企業は自らの環境経営や脱炭素に向けた活動指標として重視しているのです。例えば、サプライチェーン排出量の全体像(排出総量)と排出源ごとの排出割合を知れば、優先的に削減すべき対象は何かを特定することができます。サプライチェーン排出量は一回きり算定するのではなく、継続的に算定して経年変化を分析することにより、排出量削減の対策に活かすことができます。
<参考>環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/index.html
排出量算定ビジネスが続々誕生
巨大なサプライチェーンを持つ大企業の中には、早くから自前の排出量算定システムの開発に投資している例もありますが、多くの企業にとって、他者の提供する算定サービスを導入するのが、できるだけ高精度なサプライチェーン排出量の算定を継続するための効率的且つ現実的な選択肢の一つかも知れません。
IT企業等による排出量算定サービスが次々に発表されています。例えば株式会社ゼロボードが多言語(日本語、英語、タイ語)で提供する「CO2排出量算出クラウドサービス」や、ブーストテクノロジーズ株式会社が提供するCO2等排出量の可視化・管理・報告のプラットフォームサービス「Energy x Green」、アスエネ株式会社のCO2排出量見える化・削減クラウドサービス「アスゼロ」など。それら急成長しているスタートアップ企業のみならず、IT企業大手も続々と参入しています。 NEC、日立ソリューションズ、日本アイ・ビー・エム、マイクロソフト、セールスフォースの他、NTTデータと旭化成による共同開発のサービス等です。国内外企業による、GHG排出量算定ビジネスのシェア争いはこれからますます激化すると見られます。
編集後記
サプライチェーン排出量の算定は「プライム市場に上場していない企業には無関係」とは言い切れません。顧客企業から、Scope1~3の情報提供や、排出量削減の具体的な目標値の提示を求められるケースは今後増えていくことでしょう。それに備えて自社のサプライチェーン排出量の算定とその先の削減活動は急務であることを改めて認識しました。
最後に本コラムの内容を1枚にまとめたニュースレターを添付しますので、ご参照ください。
ニュースレター_2022.12
令和4年12月22日
株式会社リーテム
サーキュラーエコノミー推進室
杉山 里恵
(図)加藤 翠
リーテムのサービスのご紹介
廃棄物一元管理サービス
https://kanri.re-tem.com/
太陽光パネルリサイクルサービス
https://solarpanel.re-tem.com/
広域認定取得支援コンサルティング
https://www.re-tem.com/service/service_list/regional/
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