読み解く!廃棄物処理法(6)~廃棄物の性状通知(3)~

今回のコラムは、本コラムで何回か掲載させていただきました利根川流域のホルムアルデヒド問題について7月24日の埼玉県知事の記者会見でありましたので、その続報を紹介させていただきますとともに、この事案とは少し異なるかもしれませんが、行政から警察への告発、報告による刑事罰の書類送検も増えてきているものと思われますので、それらについても紹介させていただければと思います。

まずはじめに利根川流域のホルムアルデヒド問題を簡単に振り返ります。

【利根川流域のホルムアルデヒド問題】
排出事業者であるD社の産業廃棄物の廃液中にヘキサメチレンテトラミン(以下「HMT」という。)という化学物質が含まれており、その廃液は産業廃棄物処理業者のT社において中和処理されたものの、HMTが十分に処理されずに河川中に放流されてしまった。これが原因となり、利根川流域の浄水場の浄水処理過程で用いられる消毒用塩素と反応したことによりホルムアルデヒドが発生し、埼玉県、千葉県、茨城県、東京都(以下「1都3県」)を中心に、一時36万世帯近くが断水した。

【埼玉県の判断(6月上旬)】
6月上旬の埼玉県の判断では、排出事業者のD社は、処理業者であるT社を処理委託前に事前に実地確認しており、その他の排出事業者責任も全うしているため、刑事罰を科すのは難しいだろうとの判断であったと思われます。

【埼玉県、上田知事の判断(7月24日)】
埼玉県の上田知事は、D社は、T社での中間処理後の排水でこのような危険につながることが予見できるはずだった。D社はこのような36万世帯近くの断水を引き起こした社会的責任がある。これらにより、1都3県で損害賠償か示談を行っていくとの考えを示された。

◆埼玉県、上田知事記者会見(テキスト版)
http://www.pref.saitama.lg.jp/site/room-kaiken/kaiken240724.html#02

【この事案から学ぶこと】
今回の事案は、廃棄物処理法で定められている排出事業者責任がどこまでなのか、その排出事業者責任がますます強化されつつあるのかなと予感させるものと言えるかもしれません。
具体的に言いますと、排出事業者の責任は、処理業者の事前の実地確認までを行っているのだからそれで十分であろう、というわけではないと言えるかもしれません。
(今回のD社の対応では、それよりも基本的な排出事業者責任である、契約書の締結やマニフェストの交付、処理業者の許可内容の確認などは当然行われていることと思われます。)

D社は、今回のT社への処理委託とともに、他の焼却処理を行う産廃業者にも処理委託されておりました。ところが、(どのような事情でそうなったのかはわかりませんが、)今回の中和処理を行うT社に処理委託したということで、今回のようなことになってしまったということのようです。(焼却処理業者へ委託した廃液は無事に処理されております。)

従い、今回の事案から学ぶことは、産廃業者の「処理方法」が妥当かどうかも見極めること、これにつきるものと思われます。
処理方法とは、「焼却」「溶融」「破砕」「圧縮」「中和」「脱水」「埋立」などがあります。
排出事業者は、処理委託する廃棄物がはたしてその処理方法で適正に処理できるのか、またその中間処理後の残渣などはどうなるのかなど、その中間処理後の最終処分先まで把握することが必要になるかもしれません。

今回のケースは、特殊な化学物質が含まれていたため、このような事案になってしまいましたので、有害物質である特別管理産業廃棄物を排出する排出事業者は特にもう一度この観点で見直されてもよろしいかもしれません。

【最近の行政の動き】
最近の行政の動きとしては、以下のような動きが顕著になりつつあるものと思われます。

◇行政からの警察への告発、報告
排出事業者の無許可業者への処理委託など、これまでは行政指導に留まっていたものが多かったものと推測されますが、刑事罰に該当すると認識した場合には、警察へ告発、もしくは報告する事案が増えてきたものと思われます。
すべてが告発しているかは実務の面があるため不明ですが、行政の立場からすれば、刑事罰に該当する行為を認識した場合は、原則的に警察に告発ないし、報告するのではないかと思われます。

このように、行政のチェックも厳格化されつつありますので、排出事業者としてはさらなる法令違反となることのないようコンプライアンスの強化が求められてくるものと思われます。

また、行政指導、行政処分、書類送検、罰則の適用などについては、次回以降のコラムでまた機会がありましたら紹介させていただければと思います。

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坂本裕尚