読み解く!廃棄物処理法(5)~廃棄物の性状通知(2)~

今回のコラムでは、5/30のコラムでもご紹介させていただきました、関東各地の利根川水系の浄水場で基準値を超える有害物質ホルムアルデヒド問題のゆくえと、今回の事案から学ぶところの排出事業者が処理委託する前に行うべきことについて、ご紹介させていただきます。

【今回の事案の概要】
今回の事案の概要は、埼玉県のHPでの発表によりますと、以下のとおりとなります。

(以下、埼玉県HP発表の抜粋)
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排出事業者であるD社から産業廃棄物として排出されたヘキサメチレンテトラミン(以下「HMT」という。)を高濃度に含有する廃液が、産業廃棄物処理業者のT社において中和処理されたものの、HMTが十分に処理されずに河川中に放流されたことが原因となり、そのHMTが浄水場の浄水処理過程で用いられる消毒用塩素と反応することによりホルムアルデヒドに変化して起きたものと考えられる。

【HMTの流出の原因について】
前述のとおり、T社は、廃液に高濃度のHMTが含有していることを認識せずに中和処理だけを行い、結果としてHMTが十分に処理されないまま河川中に放流されたものであると推定される。

【関係者の法的責任】
◆D社の法的責任
D社は、T社との処理委託契約において、廃液中に高濃度のHMTが含有していること、HMTが浄水処理過程で水道水質基準項目であるホルムアルデヒドに変化する旨を告知していない。
しかし、HMT自体に有害性はなく、廃棄物処理法及び水質汚濁防止法で規制されている物質ではないこと、D社は、全窒素濃度等の試験成績書やサンプルを提供しており、廃棄物に関する情報を秘匿したとは認められないことから、「契約書にHMTの情報を記載しなかったこと」は、廃棄物処理法第12条第6項に定める委託基準違反には該当しない。

◆T社の法的責任
T社は、D社から委託された中和処理を行っていることから、廃棄物処理法上の違反には該当しない。また、水質汚濁防止法の関係ではT社の中和処理施設において、窒素分は2割程度しか除去されていなかった可能性があるが、当該排水が現存しないなかで、その確認はできない。

◆埼玉県HP
http://www.pref.saitama.lg.jp/news/page/news120607-08.html

◆群馬県HP
http://www.pref.gunma.jp/houdou/e1000037.html

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【この事案から学ぶこと】
今回の事案は、排出事業者としての法的責任がどうなるかというのを、筆者も注目しておりましたが、結果的に行政指導という結論で終わるような動きです。
ではなぜ、行政指導にとどまるのかを分析しますと、以下のことがあげられるものと思われます。
(D社の対応)
・処理委託する廃液中の、規制対象である全窒素などの分析結果、及び廃液の実サンプルの提供
・処理委託中における処理業者への現地確認

◆排出事業者責任
廃棄物処理法の中で定められている排出事業者責任とは、契約の締結であったり、マニフェストの交付であったり、許可内容の確認であったり、様々なことが求められておりますが、D社の対応としては、前述のとおり、処理委託前の実サンプルの提供や、処理業者の実地確認も行っておりますので、確かに排出事業者責任までは問えないものかと思われます。
ですが、結果的には、T社の処理が不十分であったところからすると、D社はT社の処理をすべて確認できてはいないので、排出事業者責任を問えるのではないかという声がもしかしたらあるかもしれません。

◆処理委託先の選定
前述の埼玉県や群馬県の発表によると、D社は焼却処理を行っている産業廃棄物処理業者、A社にも同じ廃液を処理委託していたとのことです。今回、T社ではなく、A社にすべて処理委託していれば、このようなことにはならなかったものと思われます。

◆結論(提案)
これらの情報を基に、本コラムをお読みの排出事業者が、同じような事態に陥らないためにも、以下の対応をされてはいかがでしょうか。

処理委託先の処理方法の妥当性の確認

今回の事案では、中和処理ではなく、焼却処理の方が向いていることが今回の問題から理解できることから、処理委託している廃棄物の処理方法が妥当かどうかを確認。

処理が適正にされるかの事前確認

処理委託する廃棄物の処理方法が妥当かどうかが簡単にはわからない場合には、処理業者にサンプル提供するか、処理業者の現場を実地確認する。

この他にも、排出事業者責任として、以下に簡単ではありますが纏めてみましたので、確認されてはいかがでしょうか。(これは極々基本的な確認事項です。)

処理委託契約の締結

・中間処理業者、収集運搬業者と1対1で契約締結しているか。
・処理委託契約の内容は法改正内容を満たしているか。
・契約期限が切れていないか

マニフェストの交付

・マニフェストを廃棄物の排出ごとに交付しているか
・マニフェストの処理業者からの返送を確認しているか

処理業者の許可内容の確認

・処理業者の許可年月日の期限が切れていないか

今回の事案から学ぶところとして、排出事業者が処理委託した廃棄物が、予期せぬところで万が一不適正処理されても、排出事業者責任を全うしていると第三者に対して言えるような方法ではないかということで紹介させていただきました。

前のコラムにも書かせていただいたかもしれませんが、廃棄物を扱う上においては”リスク”というのは、どうしても付きまとってしまうものです。それを最小化すべく排出事業者責任としての対応を行っていれば、今回のようなことがもし万が一起きたとしても最悪の事態には陥らないものと思われますので、今回の事案から、排出事業者責任というのをもう一度見直されてはいかがでしょうか。

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株式会社リーテム
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坂本裕尚